建造物装飾における「金具」とは、社寺仏閣・文化財の装飾品や補強材を指します。
構造を補強する釘や鎹(かすがい)・丁番などの建築金物、部材を保護する根巻などの包金物が、歴史を重ね、より造形的に装飾性を帯びたものが「錺金具(かざりかなぐ)」と称されます。
一枚の金属の板材は、鎚(つち)で叩くことで膨らみが加わり、そこに鏨(たがね)を用いて文様を一つ一つ彫り刻み、職人の手の中で自在に変容を遂げて完成されます。
鏨を打つ力加減や、リズムの乱れはその出来栄えが顕著に表れるため、集中力・経験・技術、全てを投じ何枚もの金具を調整します。
弊社では、神社仏閣をはじめとした文化財修理に携わった経験を活かしながら、先人から連綿と受け継がれた伝統技術や学びを糧に、取外しから鍛金(たんきん)・彫金仕上・取付まで一貫して自社で作業を担当しています。
分業が多いこの業界で全工程を一貫して請け負えるのは非常に稀な企業です。
錺金具に施す漆箔とは、金具表面に漆を接着剤として摺り、箔箸で丁寧に金箔を配ってから真綿で押し(貼り)、金箔を定着させて金色に仕上げる技法です。
金の色味をそのまま活かせる技法ですが、接着剤に漆を使用するため、気候や湿気、直射日光による紫外線、地域によっては塩害などの外的影響を受けやすいので、漆の調整・拭き上げなど熟練の技術や知識が必要です。
水銀鍍金は、金具表面に水銀を塗布し金箔を重ねた後加熱し、表面の水銀を揮発させて金色を定着させる技法です。
水銀が金・銀・銅に対して溶け込む性質を活かしています。
弊社では水銀鍍金専用の作業施設を設け、徹底した環境整備のもと、有資格者による安全管理に十分配慮し、作業を行っています。
煮黒味(にぐろみ)
煮黒味(煮黒目)は金具表面を黒色に染め付ける技法の総称です。現在では、主に脱脂した金具を硫化液に浸して黒色に染め付けることを指します。
その他、不純物が入った銅合金、または意図的に不純物を混ぜた銅合金を用いて錺金具を作り、硫酸銅と緑青の入った液で煮込み黒色に染め付ける技法も存在します。
煮色は、銅または銅合金(色金)を硫酸銅と緑青の入った液で煮込み、酸化被膜となる錆色に染めつける技法です。
純銅の場合は【茶色】、不純物の入った精錬する前の状態の銅(山銅)や意図的に不純物を入り混ぜた銅(黒味銅)は【黒色】、純銅に1%~14%金を混ぜた赤胴は【青味かかった黒色】、銅に四分の一銀を混ぜた朧銀(四分一)は【灰色】、真鍮は【鶯色】に多様に表情を変えます。
金具表面に酸化被膜をつけることで耐久性は生じますが、取付場所の気候条件に耐久度が左右されるため、さらに表面に保護塗料または蜜蝋(みつろう)やイボタロウ(※)などでコーティングします。
主に山車金具、引手や釘隠し等の内部錺金具、美術工芸品等に用いられる技法で、前出の色金の精製方法と併せ、日本古来の伝統技術の一つです。
※イボタロウ…カイガラムシからの分泌物を精製したもの。主に木材や金属の表面コーティング、艶出しに用いられる。
燻しは、金具を杉葉や檜屑を焚いた煙に繰り返しかざし、燻すことで黒色の油煙膜をつける技法です。
油煙膜を何層にもつけることで金具表面を保護する役目を持ちますが、塗料と同様、物理的な着色方法により湿気や諸条件の影響を受けやすいため、表面をイボタロウ等でコーティングします。
焼漆は金具を熱し、表面に漆を幾度も摺り込むことで表面に黒色の焼き付け漆層を施す技法です。
錺金具では主に鉄金具や擬宝珠等の鋳造金具に、また、鉄製武具や甲冑、鉄瓶などの美術工芸品の表面加工に用いられます。焼漆も素材の特性上、湿気や紫外線等外的要因を受けやすい技法です。